館長からのメッセージ

私のアラビアンナイト

私が、KISRクウエート科学研究所へ赴任したのは1968年9月、27才でした。

東京水産大学の恩師黒沼勝造博士の推薦でした。
 それから40年余の歳月が流れました。
 たった2年間の研究員生活でしたが、アラブは若かった私に多くのことを教えてくれました。
 研究所の事務局を担当していたのは田井中勝次氏だった。
 彼はアラビア語が専門でした。
 今日でも彼とは旧交をあたためさせていただいております。
 彼を通じてアラブ世界について多くのことを学びました。

研究所での私の任務はアラビア湾の魚類調査でした。
 この海域の魚類調査はデンマークの魚類学者ブレグバッドによる報告(1944年)しかなかった。

調査海域はアラビア湾奧、シャッタルアラブ川からクウエート、カフジ沖、アラブ首長国連邦、ホルムズ海峡を越えてオマーン湾に及びました。

チグリス・ユーフラテスの大湿地帯では、水牛と川魚漁で暮らすマーシュ(湿地帯の)アラブに出会いました。
 部族長は乾燥牛糞のあかあかと燃える囲炉裏で川魚を炙ってごちそうしてくれました。

葦葺き小屋の囲炉裏端で 葦葺き小屋の囲炉裏端で

砂漠の遊牧民ベドウインのテントを訪ねると、あるじは、緑のコーヒー豆を煎って真鍮の鉢で潰し、小さなカップでくりかえし淹れてくれました。

ふいごで火をおくすベドウインのあるじ ふいごで火をおくすベドウインのあるじ

湿地帯でも砂漠の海でもアラブ人は航海者に優しくする不文律がありました。
さて、採集した魚類は、クウエート大学の海洋生物学教室に持ち込みました。
私は、アメリカ留学から帰国したばかりのサーリム・モハンナ君(後に教授)の研究室の居候して研究しました。
採集した魚は、一応の査定をして全て東京水産大学へ送りました。
帰国後は上野動物園勤務の傍ら、黒沼博士と標本の研究を続け、Fishes of Kuwait (1972、123pp+pl.20),Fishes of the Arabian Gulf (1986,356pp. pl.35)がクウエート研究所から出版されました。

田井中さんとの交流は上野の根津の縄のれん「海山」を拠点に続きました。

アラビア湾の魚類調査が本になった アラビア湾の魚類調査が本になった